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EP16「未来の招待状」

 風が優しく俺の頬を撫でている。それに気付いて、俺は目を開けた。横では輝咲も倒れている。

暁「ここは・・・?」

 広い公園の野原に俺たちはいた。とてもいい天気だったが、公園に人影は無かった。

輝咲「ん・・・。」

 輝咲も意識が戻ったようで、目をこすりながら上半身を起き上がらせた。

暁「大丈夫か?」

 俺は立ち上がって、輝咲に右手を差し出した。

輝咲「うん、ありがと。」

 その手を取って、立ち上がる。

暁「ここ、どこか分かるか?」

 一見見渡す限り、公園の外は日本語で書かれた看板が掲げられた店やビルが立ち並んでいるので、日本には間違いない。
あまり未来に来たという実感は無く、普通の東京の都会といった感じだった。
 誰しも未来というと巨大でメカニカルな建物や、宙に浮かぶ乗り物などをイメージすると思うが、全然違っていた。
逆にこの方が落ち着いて個人的にはよかった。

輝咲「たぶん、ここは東京です。時は2071年ぐらいだと思います。」
暁「東京にしては、人少ないな・・・。」

 通りもガランとしていて、冬場の5時過ぎと言えど、ありえない状況だった。

輝咲「今日は1月7日・・・・。」

 電光掲示板の時刻を見て輝咲が呟いた。

輝咲「暁君、逃げて!今日はリネクサスが――。」

 最後の言葉が爆音でかき消された。

暁「輝咲っ!!」

 すぐ近くで爆発が起こった。煙が上がり、向こう側にあるビルが倒れた。

輝咲「今日はリネクサスが襲撃に来て、東京が半分壊滅状態になる日です!」
暁「何だって!?」

 また爆発音がこだました。輝咲をかばうように、俺は地面にしゃがみこんだ。顔を上げると、灰色の機体がビルの間から現れた。

暁「エインシード!」

 長い首にアンバランスなボディは、嫌でも脳裏に焼きついていた。
 次の瞬間、エインシードに弾丸が打ち込まれ、機体は爆発した。

暁「今度は何だよ!?」

 弾丸が発射された方向を見ると、薄い青色をした機体がマシンガンを構えていた。バリケードに若干だが似ていた。

輝咲「ヴァンガード、今の日本の主力機人です!」
暁「くそっ、アルファードがあれば・・・!!」

 心の中でアルファードの名前を叫んでも、やはり白い龍はサモンされる事はなかった。

暁「とにかく逃げよう!」

 輝咲の手を取り、交戦中のエインシードとヴァンガードが見えなくなるまで走った。
走り続けること数分、ようやく機影が見えなくなった。だが周囲では爆発音がまだまだ鳴り響いていた。

輝咲「ここまで来れば、なんとか戦闘区域を抜けていると思うけど・・・。」

 不安そうに輝咲が空を見上げた。その時、すぐ近くの曲がり角からエインシードが顔を出した。
高層ビルに隠れていて全然気付かなかった。

暁「しまった!」

 俺はただ驚きの目でピンクの一つ目を見ていた。エインシードが手に持っていたライフルをこちらへ向けた。

暁「うっ!!」
輝咲「きゃぁぁっ!!」

 撃たれる、そう思った一瞬の空白。だが打って変わって、大きな爆発音が響いた。
頭を低くしてみると、群青色の機体がライフルを構えていた。次にビルの間を見ると、さっきのエインシードは崩れて燃えていた。

???「鳳覇 暁だね?」

 青い機体から少年の声が聞こえた。その機体はさっき見たばかりのヴァンガードに酷似していたが、明らかに異なっていた。

暁「お前は誰だ!?」

 声を大きくして、青い機体に向って叫んだ。

セレア「僕はセレア。君達を迎えに来た。」


 EP16「未来の招待状」


 青い機体はゆっくりとこちらに近づいてきた。

セレア「本当はゼオンが迎えに来るはずだったんだけどね。
    ちょっとした事情で、今は向こうの空さ。」

 今までに見てきた機神や機人とは違い、セレアが乗っている機体は腹部がコクピットだった。腹部の六角形のハッチが開いて、茶髪の少年が出てきた。
緑色の目は俺たちがワープしてきた場所を見つめていた。すでに向こう側は黒い煙と炎が舞い上がっていた。

暁「ゼオン・・・?」

 セレアの言葉から、ゼオンというのが俺を待っていたらしい。だが俺には聞いた事がない名前だった。
 突然青い機体のコクピット内部から警報音らしきものが聞こえてきた。

セレア「ちっ、リネクサスさん家のワンちゃんか。」

 見ると、青い機体の後ろにエインシードが2機現れた。

リネクサス兵「また現れたな、無所属機!」
セレア「無所属とは失礼だなぁ、僕は僕自身に所属してるんだけどね。」

 セレアはやれやれといった感じで青い機体に乗り込んだ。ライフルをエインシードに向ける。

セレア「ワンちゃんのお相手は楽すぎて困るんだよね。」

 青い機体の脹脛の外側が展開し、大きなバーニアが左右1基ずつ現れた。かと思うと、一瞬にして青い機体はエインシードに接近していた。
ブラッディーモードの速さとまでには及ばないが、それでもエインシード相手には十分すぎる速さだった。
 エインシードがライフルを乱射してセレアの機体を止めようとするが、青い機体は俊敏な動きで弾丸を間一髪回避していく。

セレア「さ、お寝んねの時間だ!」

 腕から短い白い棒を取り出したかと思うと、それから長く青いビームの刃が現れた。その刃を振り下ろすと、エインシード2機は瞬く間に上半身と下半身が分離した。

暁「未来にはあんな機体まであるのか。」
輝咲「ううん、私もあのタイプの機体は見たこと無いよ。」

 その戦いを見ていると、今度は逆方向からヴァンガードが5機現れた。

兵士A「おい、そこの2人!避難警報を聞かなかったのか!?
    はやくシェルターに行け!」
兵士B「隊長、例の無所属機です!」

 ヴァンガード部隊の1機が、セレアの機体を指差して言った。さっきのリネクサス兵も無所属機と言っていたが、セレアは何者なのだろうか。
中立という言葉が頭に浮かんだが、ならばどちらからも攻撃はされないはずである。

セレア「ヴァンガード5機か・・・、ちょっと辛いかな。」

 そういいつつも、青い機体はヴァンガード部隊の方に向きなおし、ビームの剣を構えた。
 その時、空気の流れが一瞬にして変わった。

輝咲「暁君・・・。」

 輝咲が俺の右腕にしがみ付く。その体は小刻みに震えていた。正直なところ、俺も怖くてこの場から逃げ出したかった。
恐怖感を引き出す空気の流れが、さらに大きくなる。
 俺はできるだけこの恐怖を悟られないように、力強く輝咲の手を握った。

兵士C「これは・・・!!隊長、奴が・・・ゼオンが来ます!!」

 さっきもセレアの口から出たゼオンという名。

暁「ゼオン・・・?」

 呟いた途端、上空に新たな機影が現れた。白銀の翼を持ち、後に長い2本の角を有する人型だ。その白銀の機体はヴァンガード部隊の前に静かに降り立った。
ヴァンガードはすぐさまマシンガンを連射する。だが相手はビクともしない。

兵士A「撃て、撃てぇっ!!」
ゼオン「・・・・。」

 白銀の機体が背中から取り出した2本の太刀でヴァンガード一機を縦3等分に切り裂いた。一瞬の出来事で、まだ頭で処理が追いつかない。
だが、俺にはあの機体が間違いなくこの空気の流れを変えた正体であることは確信していた。
 崩れ落ちるヴァンガードを他所に、他のヴァンガードは白銀の機体にマシンガンの弾丸を打ち込んだ。

ゼオン「無駄だ。」

 白銀の機体は美しく翼をはためかせ、上空へ舞い上がった。背部の羽が円を描き、まるで白銀の太陽、いや月のようだった。

ゼオン「エイオシオン・ノヴァ!!」

 白銀の6つの羽がサンクチュアリ・ノヴァと同じ色で輝きだした。そしてノヴァは6つの線と化してヴァンガードを貫いた。
まるで単機でアルファードとディスペリオンの能力を得ているかのようだった。

兵士A「うわぁぁぁぁっ!!」

 残り4機のヴァンガードはノヴァの光が消えると共に機能停止し、地面に倒れた。不思議な事に爆発はしていない。

暁「爆発を避けている・・・?」

 俺はようやく気付いた。

暁「輝咲、ゼオンは俺だ。」
輝咲「えっ?」

 きっと俺が俺を保てているなら俺はそうするだろう。誰も傷つけず、任務を遂行する。

暁「ほら、アイツの攻撃。全部コクピット以外の場所を狙ってる。
  爆発もさせていない。」

 鉄くずとなったヴァンガードを指差して言った。
 その時、風が一層強くなった。真上を見上げると、白銀の機体が降りてきた。それも俺たちの目の前に。
その機体の胸部が開き、中から黒髪の少年が出てきた。白銀の機体の手を使って、地面に降りてくる。
 思ったとおり、そこには俺と瓜二つの少年がそこにいた。

ゼオン「やっと来たな、過去の俺。」
暁「ゼオン、お前は俺なんだな?」

 ゼオンは黙って頷いた。

ゼオン「セレア、急用を押し付けてすまない。」
セレア「ど~いたしまして、と。」

 青い機体もこちらに近づいてきた。腹部のコクピットが開き、セレアも地面に降りてくる。

暁「お前は今リネクサスなのか・・・?」
ゼオン「あぁ、俺はお前と違って運が無いからな。」

 ゼオンが鼻で笑った。

ゼオン「無駄な話をしている時間はあまり無い、ここに来た事情は後で聞く。
    セレア、後は頼む。」

 会ったばかりなのに、ゼオンはすぐさま白銀の機体へと乗り込んだ。胸部にコクピットが入ると、白銀の羽を羽ばたかせ、一瞬で空に舞い上がった。

暁「あれが、エイオス・・・。」

 美しく空を飛ぶ姿は、力ある正義を表しているかのようだった。まるでその美に心惹かれた人のように、俺は呟いた。

セレア「さて、それじゃ僕らも行こうか。」

 青い機体に乗り込むと、その機体は手を差し出した。俺と輝咲はその手に乗った。乗ったのを確認すると、手はゆっくりと腹部付近へもって来られた。
開けっ放しだったコクピットに俺と輝咲は乗り込んだ。

セレア「ちょっと狭いけど、ここはシェルター並みに安全な場所だから。」

 そう言うと、青い機体のコクピットを閉めた。


 -PM06:12 独立部隊地下基地-

 青い機体に乗って数十分、俺たちは地下基地に連れてこられた。地理には詳しくないが、位置的に神奈川の範囲へと入ったようだ。

セレア「さ、着いたよ。」

 青い機体を地下基地のハンガーに固定する。コクピットハッチが開くと、地上に降りる階段が出てきた。

輝咲「ここは何処なんですか?」
セレア「僕らの地下基地さ。地上は政府とリネクサスとのドンパチがうるさいからね。
    こうして君たちが来るのを僕らは影で待っていたのさ。」
暁「俺たちが来ることを知っていたのか?」
セレア「あぁ、もちろんさ。」

 セレアは階段を下りた。俺と輝咲も後に続く。ここのハンガーもARSの地下ハンガーと同じぐらいの大きさだった。
他にはセレアの機体の色違いが数機あった。整備士がすぐに青い機体の整備を始めた。
 もうちょっとハンガー内を見学したい気持ちがあったが、セレアはスタスタと歩き始めた。迷子にならないように小走りでそれについていく。

セレア「鳳覇 暁はリネクサスの要として存在するため、X-ドライヴァーとしての力を得ている。」

 歩きながら突然セレアが話し始めた。

セレア「完全覚醒した鳳覇 暁は、鳳覇 光輝の手によりコールドスリープにかけられ、50年の時を眠っていた。
    もちろん、50年前の記憶なんてのは眠っているうちに忘れているものさ。」

 ハンガーを出ると、広い廊下が続いていた。歩く早さを緩めることなくセレアは続けた。

セレア「記憶が曖昧な鳳覇 暁は鳳覇 光輝の言葉を鵜呑みにし、リネクサスへと入るはずだった。
    ただしここでリネクサスにとっては致命的な問題があった。」
輝咲「問題・・・ですか?」
セレア「鳳覇 暁の記憶は完全に消えていなかった。曖昧じゃなくて、80%は覚えていたんだ。
    確かに鳳覇 暁はリネクサスへと入った、でもすぐに自分の過ちを知った。」

 セレアは足を止め、180度回転して俺を見た。

セレア「今から過去を変えることはできない、でも今から未来を変えることはできる。
    今という時間軸は捉える人によって異なるけど、君は今から過去の存在なんだ。」

 俺を指差して言った。

セレア「君が今の事実を知ったら、きっとこの今にやってくると鳳覇 暁は信じていた。
    彼は"ゼオン"と名乗り、君が来るのを待っていた。」
暁「俺がここに来ることを・・・?」
セレア「君は君であり、今のゼオンでもある。今が思ったことは過去でも思う。
    そうゼオンは踏んだのさ。」

 セレアは廊下の横にある扉の端の端末を操作しカードキーを使って開けた。

輝咲「こ、ここは・・・!」
セレア「インフォーマーである君には懐かしい場所かな。」

 そこは基地というよりも、職員室などの一室といった表現の方が正しい部屋だった。

暁「知ってるのか?」
輝咲「ここは、私が育ったところ・・・。」
暁「まじかよ!?」

 輝咲は頷いた。

輝咲「一回だけしかこの部屋には入ったことないけど、間違いないよ。」
セレア「一応ここは子供達には立ち入り禁止にしてあるからね。」
輝咲「迷ってこの部屋に入ったとき、施設のお兄さんに道案内してもらったんだ。」

 恥ずかしそうに輝咲が顔を赤らめた。
 その時、部屋の向こう側のドアが開いた。一人の目がねをかけた女性が入ってきた。

輝咲「梓先生!」
梓「はっ・・・輝咲ちゃん!」

 梓と呼ばれた先生は抱えていた書類を投げ捨て、輝咲と抱き合った。どうやら、この人が輝咲を育ててきた人のようだ。

梓「可愛い女の子になっちゃって!よかった・・・無事でいたんだね!」
輝咲「うん、先生!」

 梓が輝咲の頭を撫でる。

セレア「ここはインフォーマーを育てるための施設なんだ。
    榊 輝咲も有能なインフォーマーの一人として、普通の女の子として、花田 梓さんに育てられてきたんだ。」
暁「そ、それじゃあ、ここに過去の輝咲が!?」
セレア「あぁ、捜せばすぐに見つかるかもね。」

 セレアも俺も、幸せそうな輝咲と花田を見ていた。

セレア「僕らがやっていることは、神でさえ許してくれない禁忌なのかもしれない。」
暁「えっ?」
セレア「普通な女の子を今と過去と未来を繋ぐ重要な存在にしているんだ。
    いずれ戦いがなくなった世界で、僕らは罰を受ける覚悟でいる。」

 陽気な喋り方だったセレアが、一瞬にして冷静さを持った。

暁「罪は誰だって背負う、でもそれは悪い罪と良い罪と二種類ある。」
セレア「悪い罪は罰せられるが、良い罪はいずれ罪ではなくなる。
    それは自分で気付けるものではないってね。」

 俺が言おうとしたことをセレアがそのまま続けた。

暁「何でそれを・・・?」
セレア「ゼオンが言ってた。」

 ニコッとした笑顔でセレアが言った。
 その途端、セレアの携帯らしきものが音を発した。

セレア「おっと、はいはい?
    ・・・・あぁ、分かったぜ!」

 セレアは嬉しそうに通信を切った。

セレア「ゼオンのお迎えだ、政府側に追われているらしい。
    暁、お前も着いて来い。」
暁「あ、あぁ!」

 走り出したセレアの背中を追った。今まで来た道を逆走し、ハンガーへと辿り着いた。

セレア「君は向こうの赤い奴に乗って。操縦方法は機神同様に感覚で動く。
    でも一応こいつらはゼオンが設計開発した機人だ、迂闊にでしゃばらないように!」
暁「分かったぜ。」

 セレアが乗るのと同じ形の機人に乗り込んだ。腹部のコクピットは違和感があったが、中身はアルファードとそこまで変わらない造りだった。
俺の搭乗を確認すると、赤い機体は電源が入った。各モニターが明滅を繰り返し、機動する。

暁「あっ、セレア!一つ聞いていいか?」

 感覚で動くと言ったが、本当に機人では有り得ない反応で通信モニターが開いた。

セレア「どうした?」
暁「コイツ、名前は何ていうんだ?ヴァンガードとは違うようだし・・・。」
セレア「思い当たる名前はないかい?過去を振り返ってみて、自分が考えた機体の名を。」

 そう言われて、俺は分かった。

暁「そういうことか・・・。」

 やっぱり俺が作った機体だけに、この名を付けたと思ってしまった。

セレア「先に出るぜ、暁。"暁蒼(ぎょうそう)"セレア機出る!」

 ハンガーから真上に向ってセレアの機体が射出された。

暁「"暁緋(ぎょうひ)"暁機行くぜ!」

 大きな振動と共に、緋色の機人は地上へと上げられた。
 外はすでに夕暮れを過ぎており、かすかにオレンジ色の明かりが見える程度だった。

暁「ゼオンは何処に・・・?」

 レーダーを使って捜すと、エインシードが一機、ヴァンガードが五機確認された。
そのうちエインシードは肉眼で確認できる距離にいた。装甲はズタズタに引き裂かれ、左手は千切れていた。

暁「ちっ、リネクサスまで・・・!」
セレア「そいつにゼオンが乗ってる。俺たちの敵は向こうのヴァンガードだ。
    くれぐれも爆発させんなよ!」

 暁蒼の足の装甲が開き、ビルの群れを飛び越えてヴァンガード部隊へと向っていった。俺も同じようにその部隊へと向っていった。

兵士Z「くそっ、また無所属機か!」
セレア「脅えんなって、命はとらないからさ!」

 ライフルを連射してヴァンガード部隊を牽制する。

兵士Z「えぇい!各機散開して応戦するぞ!」

 各ヴァンガードはビルの陰に隠れ始めた。

セレア「暁、街もあんまり壊すなよ。」
暁「了解!」

 俺は目の前に現れたヴァンガードをロックした。頭部に目掛けてライフルを連射する。ヴァンガードの頭部が爆発した。

暁「悪いっ!」

 ホバーリングで視界を失ったヴァンガードに向い、ビームブレードで足を切断した。崩れ倒れるヴァンガードをよそ目に、次の目標へと向った。
一方セレアの方もヴァンガードを一機行動不能にさせたようだ。

兵士Y「君達も人間なら何故我々の味方をしない!?」
セレア「"人間だから"味方をしないんだよ。
    もう今は変わらないからね。」

 暁蒼は二機目のヴァンガードを相手にしていた。

兵士Z「双方が互角に戦っている中で無所属とは、ただの弱虫にすぎぬ!」
暁「弱虫で十分!俺たちは今を変えるためにやってるんだっ!!」

 体当たりしてくるヴァンガードの攻撃をひらりと飼わした。ブースター部分にマシンガンの弾丸を撃ち込む。

暁「この世界は変わらない、でも平行軸では平和な世界で暮らせてるんだ。」

 倒れたヴァンガードの頭部と両足をビームブレードで突き刺した。

セレア「そっちは終ったかい?」

 ビルの間から暁蒼が出てきた。その後には倒れた2機のヴァンガードがある。

暁「あぁ、こっちも終った。」
セレア「それじゃ、撤退するか。
    ゼオン、大丈夫か?」
ゼオン「ちょっと厳しいな。さすがにエインシード一機で相手するのには限界があったようだ。」

 ボロボロで動きが鈍いエインシードが隠れていたビルの隙間から出てきた。

セレア「ほら、乗れよ。」
ゼオン「すまない。」

 暁蒼のハッチが開くと、ゼオンはそれに飛び乗った。ゼオンが乗り込むとハッチを閉め、暁蒼はこちらに手を差し伸べた。
意味が分からなかったが、とりあえず暁緋の手を握らせた。

セレア「そんじゃ、おいとましますか。」

 暁蒼の左腰から手榴弾の様なものが出てきた。それを投げると、煙幕が辺りを立ち込めるとともにレーダーがエラーを出した。
視界もレーダーも遮られた状態で、俺はただ暁蒼に引っ張られてどこかへ連れて行かれた。
 数十秒経ってから、ようやく煙幕の中を抜け出すことができた。

セレア「暁、飛び込め!」

 煙を抜けた先にあった海の中に暁蒼は飛び込んだ。大きな水しぶきをあげて、一瞬にして機影が海中に沈む。
この暁緋に耐水性があることを祈りつつ、思い切って俺も海中へとダイブした。
 港であった割には水中は深く、20m近くある機体がすっぽり隠れた。海底では暁蒼が光で誘導サインを出している。
光の方まで潜ると、海底のハッチが開いた。その中に入るとハッチが閉まり、脱水が始まった。水が無くなり、ようやくハンガーへと続く次のハッチが開いた。

暁「ふぅ、終った・・・。」

 パイロットを殺さずにする戦い方は今までしたことがないため、冷や汗かきっぱなしだった。

セレア「にしても、さすがは過去のゼオンだ。
    戦い方にちょっとしたセンス的なのがあるね。」
ゼオン「お前、今何かに乗っているのか?」

 そういえば、まだ俺がドライヴァーであることを教えていなかった。

暁「あっちの世界ではアル・・・サンクチュアリのドライヴァーだった。」
セレア「君が、あのサンクチュアリに!?」

 驚いて大きな声を上げる。

ゼオン「なるほど、大体わかった。」

 ゼオンがちょっとした笑みをこぼした。

セレア「早っ!って、何が分かったんだよ?」
ゼオン「過去の俺がこっちに来た理由さ。」

 暁蒼と暁緋がちょうどハンガーに固定された。コクピットが開き、俺たちは機体から降りた。

ゼオン「俺はお前が自分の正体を確かめに来るものばかりだと思っていたが・・・。
    話はかなり進んでいるようだ。」

 俺と同じ目をしているゼオンが俺を見た。

ゼオン「お前が乗っていたサンクチュアリが何物かに撃墜された。
    そこで未来の自分である俺からエイオスを奪いに来た、と言うところか。」
暁「奪うってのは人聞き悪いけど。」

 苦笑して俺が言った。

ゼオン「安心しろ、俺もお前が来たら嫌でもエイオスを託すつもりでいた。
    過去であるお前の今を変えるために必要な存在だ、魔神機は。」
暁「一つ、いいか?」

 俺はそのエイオスを託される立場で一つだけ疑問が残っていた。

暁「魔神機も機神みたいに次のドライヴァーになるためには前のドライヴァーは死ななくちゃならないのか?」

 こっちに来る前には吉良から同じ人物である以上、そのドライヴァーになれるだろうという仮説を聞いたが、俺はどうも引っかかっていた。

ゼオン「そんな事はないさ、お前がエイオスに認められればお前もドライヴァーさ。
    俺もお前も鳳覇 暁だ。」

 そういうゼオンとは裏腹に、セレアは顔をそらしていた。

セレア「暁、榊さん達の所に行ってきな。
    ちょっと俺はゼオンとこれから用があるから。後で俺たちも行くよ。」
暁「あ、あぁ、分かった。」

 陽気の欠片も無いセレアの表情は、何と無く怖かった。それから逃げるように、俺は言われるままハンガーを後にした。


 -PM06:58 独立部隊地下基地 育成施設-

暁「たしか、ここだったよな・・・。」

 通路のドアは見つけたが、セレアが開けたときの事を思い出すと、カードキーが無いことに気付いた。
ポケットに手を入れてみるが、出てきたのはARSのカードだった。

暁「使えたら神様信じてみようかな。」

 そんな事を呟きながら、ARSのカードを扉の横の端末に通した。ピーッという音と共にドアが開く。

暁「ほぉ・・・・。」

 開いた扉の前で俺は呆然とした、本当に使えるとは全く思っていなかった。数秒して、俺は育成施設へと入った。
やっぱりどう見ても職員室を連想するこの部屋に、ごそごそと物音がしていた。

暁「誰かいるのか?」
???「お兄ちゃん、道に迷っちゃった・・・。」

 机の下で、泣きべそをかいている少女がいた。そういえばここは立ち入り禁止にしていると言っていた。
だから見つからないように机の下に隠れていたんだろう。

暁「ったく、しょうがないな。ほら、おいで。」

 黒髪の少女は腕で涙を拭うと、小さな手で俺の手を握った。豪く前髪が長く、目が見えなかった。
 おいで、と言ったからには責任を持ってこの子を届けなければいけないのだが、俺もこの部屋の先に入るのは初めてだった。

暁「ま、なんとかなるか・・・。」

 とりあえず、花田先生とやらが入ってきたドアから外に出た。長い廊下が奥まで続いている。
その道の途中途中に扉があり、その扉の中も長い廊下が続いていた。これは迷うなと言うほうが無理だ。

暁「君、どの部屋から来たか覚えてる?」

 少女は大きく首を横に振った。覚えているなら迷うことは無いだろうと質問した自分が恥ずかしかった。
とにかく俺は手当たりしだいにドアを開けると廊下を渡ると数回繰り返した。

暁「ん?」

 壁に耳をつけると、子供達の声が聞こえてきた。小走りで声がする方へと向っていく。最後のドアを開けると、ようやく子供達がいる教室へと到着した。

???「お兄ちゃん、ありがと!」

 この廊下を見ると、少女は手を振って一番奥にある自分の教室へと走って行った。

暁「おう、もう迷子になるなよ~。」

 笑顔で手を振り返したが、内心ではこんな複雑な道を作った奴にイライラしていた。

輝咲「あ、暁君!」

 すぐ左に位置する教室の中で、輝咲が子供達と遊んでいた。その教室の窓を開けて、俺は顔を出した。

暁「すっかりお姉さん役だな。」
輝咲「えへへ、そうかな?」

 子供達と遊んでいる輝咲の姿は、幼稚園の先生のようだった。

暁「それにしても、ここは相当複雑な設計だな。
  さっき迷子の子がいてさ――。」

 今更だが、俺はようやく気付いた。輝咲はここで迷ってお兄さんに助けられたことがあると言っていた。
もしかしたら、あれが昔の輝咲なのかもしれない。俺は名前を聞いてこようかと思ったが、それはやめておいた。


-EP16 END-


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